想定読者の表示と発言に伴う責任
僕が「○○な人以外閲覧禁止!」と書かない理由

要約

 僕はウェブで文章を公開していますが、文章には想定読者というのがあり、万人に読んでほしいと思っているわけではありません。それを明示的に書かない理由は、書く必要がないから、書いたらかえって皮肉な結果になる可能性があるから、ひょっとしたら僕の想定を超えた読者の役に立つかもしれないから、の 3 点です。また、想定読者以外に読まれて困る文章を書くつもりもありません。

僕は閲覧者を選り好みします

 ウェブで万人に向かって文章を公開しているのに、万人に読んでほしくはないなどと言うと、矛盾しているように思われるかもしれませんが、そんなことはありません。だいたいどんなページも想定している閲覧者というのがあります。極端な場合には、「○○のファン以外は閲覧禁止!」などと書いてある場合もあります。想定から外れている人には「閲覧してほしくない」と思う人ばかりではないにしても、想定から外れている人が閲覧して著作者に文句を言ってきたら、かえって迷惑という場合はあると思います。

 僕の場合なら、プログラミングをまったく知らない人がこのページを読むのは想定していません。検索サイトで何かを探していて偶然このページが表示されたとして、内容について批判的なコメントを寄せてきたとしたら、僕も「あなたに読んでほしいと思って書いたわけじゃない。文句があるなら読むな」と言うかもしれません。僕が先ほどのページに「C 言語を知らない人は閲覧禁止!」あるいはそれをもう少し上品に言い換えた表現を書かない理由は、

  1. まさかプログラミングに全然興味のない人が読んで批判するとは思っておらず、「閲覧禁止!」などとページに書く必要すらないと思っている。
  2. 「禁止!」と書くことによって、かえって想定読者以外の人の注目を集めるという皮肉な結果が生じる危険がある。
  3. ひょっとしたら僕の予想を超えるところで、僕が想定していない読者が読んでも何かの役に立つかもしれないと淡い期待を抱いている (このページに限ればその可能性はほとんどゼロですが……)。

という程度のことです。僕は書かないだけで、たぶん考えていることは「○○のファン以外は閲覧禁止!」と書く人と大差ないでしょう。

 ウェブで公開しているのに、閲覧してほしくないなんて場合は、いくらでもあると思います。「だったら会員制にすればいいのに」という批判は一理あると思いますが (だからこそ mixi などが流行しているのだと思います)、会員制にすることの欠点もあるので会員制ですべて解決というわけでもありません。

 なお、自分のウェブサイトに「無断リンク禁止」と書く人の少なくとも一部は、「想定読者以外に読んでほしくない」という気持ちから書いているように感じます。上に書いたような理由から、僕は「無断リンク禁止」とは書かないし、無断リンク大いに結構、と思っていますが、「無断リンク禁止」と書くのはべつにおかしなことではないと思っています。

自由な発言に伴う責任

 でも、いくら想定する読者というのがあるといっても、想定しない人から読まれないという保証は何もないし、自由な発言に伴う責任が免除されることにもならないと思います。

 インターネットが登場する前、個人が自分の考えや創作を発表する場は限られていました。本を出版するには出版社を頷かせるだけの内容か多額の出費が必要です。新聞・雑誌の読者欄への投稿は採択されないと載らないし字数の制約も厳しいのが普通です。論文や研究会議で発表するのは、研究者や学生などアカデミックな場にいる人でないと困難だし、扱える内容も限られます。インターネットの登場によって、多くの人が自由に自分の思っていることを表明できるようになりました。

 本を出版したら、その内容が言及されるのを拒む権利はありません。それと同じように、ウェブで何かを書けば、その内容が言及されるのを拒む権利はありません。言及は、著者に心地良いものとは限りません。僕は、反対意見の表明、感情的な悪口、非難のための非難、非論理的な人格攻撃、文脈と無関係の言及のための言及、ピント外れの賞賛と我田引水、そういうあらゆる形の言及が行われる可能性があることを受け入れた上で文章を公開しているつもりです。言及の仕方が気に入らなかったら、それに対して反論するなり、黙って耐えるなりするしかないのです。それが自由な発言に伴う最低限の責任だと思います。

2006 年 12 月 30 日公開。著者: fcp / このサイトについて