言えない思い

要約

 小説や漫画を書き、ウェブで公開している人たちがいます。そういうサイトを検索して、自分の好みに合う作品を見つけたときは、大変嬉しいものです。せっかく見つけた大好きな作品の更新が止まったとき、「早く続きを読みたい」と思い、「ひょっとしてこのまま閉鎖してしまうのでは?」と不安になります。そんなとき、絶対に言うまいと決めている言葉が二つあります。その二つとは、「早く続きを読みたいです」と「閉鎖しないでください」 ― 僕の打算的な行動原理の一部を紹介します。

ウェブ小説・オンラインコミックというジャンルについて

 オンライン小説・ウェブコミックというウェブサイトのジャンルを知らない人のために、このジャンルを簡単に説明しておこうと思います。趣味で書いた小説や漫画を無償で公開しているサイトがたくさんあります。例えば Yahoo! Japan の登録サイトで「オンライン小説」カテゴリや「オンラインコミック」カテゴリを見ただけでも、各々 100 以上のサイトがありますし、オンライン小説やウェブコミックのポータルサイトに行けばもっと出てきます。無料で公開しているのだから質は知れたものかと思いきや、中には大変質の高いものもあって驚くのですが、それよりも、小説や漫画の評価というのは読み手の好みによるところが大きいので、多少ストーリーが強引だろうが文章がおかしかろうが絵が下手だろうが、好みさえ合えば引き込まれるように読めるものがあるのです。

更新が止まった日

 個人的な印象ですが、完結した作品が長いこと公開されることはあまりないようです。ひょっとすると、完結した作品はあまり宣伝されることがないため、目に付きにくいというだけかもしれませんが。そのため、頑張って自分の好みに合う作品を見つけると、だいたい連載中 (未完結) ということになります。すると、これまでに掲載された部分を読んで、あとは「お気に入り」に入れておいてときどきチェックする、という読み方になります。掲示板が設置されていることも多く、掲示板やメールで感想を書くこともあるでしょう。僕は不精をして、感想を書かないことが多いですが……。

 連載が続いているうちは、非常に楽しめます。ところが、だんだん更新のペースが遅くなってきていることに気付きます。サイトの更新をチェックするたびに、まだ続きは出ていないというのを確認するだけになってしまいます。

 ほとんどの場合、これで読むのをやめます。ところが、幸か不幸か更新が止まった作品が大のお気に入りの場合は、諦め切れません。続きを読みたい。

 そんなとき、ふと思い出します。以前大変気に入って読んでいた小説のサイトが、「最近なかなか更新されないなあ」と思っていたらある日突然消滅してしまったときのことを。文字通り、ファイルがサイト丸ごと消えてしまったのです。そんな経験は、 1 度や 2 度ではありません。この作品も消えてしまったらどうしよう。僕は最後まで読みたいと思っているのに……そんなとき、掲示板へのリンクが魅力的に見えてきます。

 「早く続きを読みたいです。閉鎖したりしませんよね?」

 そう書いて、「送信」ボタンを押す瞬間に、指が止まります。僕にはそんなことを言う資格があるのでしょうか。また、言ってどうなるというのでしょう。

打算

 そもそも作者はどうして更新をしないのでしょうか。

 忙しくて書けない? だったら「早く続きを読みたい」と言われたからって忙しい間は書けないでしょうし、時間ができればまた書いてくれるでしょう。

 書きたいのにスランプで書けなくなった? そういう状態の人に「早く続きを書かなければ」と思わせるのは、追い詰めて悪い影響こそ考えられても、良い影響があるとは思えません。

 書くのに飽きた? 書きたいのに忙しくて書けない人に対してですら、タダで読んでいる者は「早く書いてほしい」などと言う立場にないと僕は思います。書くのに飽きた人に対して何を要求できるというのでしょうか。それに、僕はこれまで連載されてきた部分を読んで気に入ったのです。きっとその部分は作者は好きで書いていたに違いないのに、飽きた後で嫌々書いてもらっても、できあがるものはきっと前とは違ってしまいます。僕が気に入った作品を読むためには、作者が「書かなければ」と思うのではなく、「書きたい」と思ってくれるのを願うしかないのです。

 サイトを閉鎖することについても同様です。理由が何であれ、作者がサイトを閉鎖したいと思っているのなら、「閉鎖しないでください」などと書いたところで状況は好転しないだろうし、悪ければ作者を追い詰めるかもしれません。そんなことを言って僕に何の得があるのか―そう僕は考えます。

 これが、とくに好きでもない、続きが書かれなくても消滅してもどうでも良い作品であれば、何を言ったって僕に損はないけれど、そもそも何か言う動機もありません。「続きを早く書いてください」「閉鎖しないでください」と言いたいのは、よっぽど好きだからなのです。オンライン小説もウェブコミックもそこらじゅうにあるのだから、多少頑張って探せばそこそこ良いものは見つかります。ほとんどの作品は、気に入っていても、更新の切れ目が縁の切れ目、更新されなくなったら僕の中から自然消滅してしまいます。それ以上に気に入ったから、出会うまでにいくつものサイトをまわってようやく見つけた大好きな作品だから、更新が止まって恐くなるのです。でも、だから、続きを読みたいからこそ、作者に僕の思いを正直に言うことよりも、作者に続きを書いてもらうためにどうしたら得かを考えてしまうのです。そのとき、「早く続きを読みたい」と「閉鎖しないで」の二つだけは言えない。

 打算的と言われればその通りです。でも、僕は大好きな作品の続きを書いてもらえるなら、打算的と思われるくらいどうってことはないのです。

2006 年 11 月 20 日公開。著者: fcp / このサイトについて